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カスタマイズに特化したブラウザ Sleipnir。上級者のために。
MonsterHunting 特別編III - 鉄輪の女 -
MonsterHunting 特別編I - 橋の上の姫神 -
MonsterHunting 特別編II - 姫神の伝説 -
より続く。

嵯峨天皇の御宇に、或る公卿の娘、余りに嫉妬深うして、貴船の社に詣でて七日籠りて申す様、「帰命頂礼貴船大明神、願はくは七日籠もりたる験には、我を生きながら鬼神に成してたび給へ。妬しと思ひつる女取り殺さん」とぞ祈りける。
明神、哀れとや覚しけん、「誠に申す所不便なり。実に鬼になりたくば、姿を改めて宇治の河瀬に行きて三七日漬れ」と示現あり。

女房悦びて都に帰り、人なき処にたて籠りて、長なる髪をば五つに分け五つの角にぞ造りける。顔には朱を指し、身には丹を塗り、鉄輪を戴きて三つの足には松を燃やし、続松を拵へて両方に火を付けて口にくはへ、夜更け人定りて後、大和大路へ走り出で、南を指して行きければ、頭より五つの火燃え上り、眉太く、鉄漿黒にて、面赤く身も赤ければ、さながら鬼形に異ならずこれを見る人肝魂を失ひ、倒れ臥し、死なずといふ事なかりけり。

斯の如くして宇治の河瀬に行きて、三七日漬りければ、貴船の社の計らひにて、生きながら鬼となりぬ。宇治の橋姫とはこれなるべし。

さて妬しと思ふ女、そのゆかり、我をすさむ男の親類境界、上下をも撰ばず、男女をも嫌はず、思ふ様にぞ取り失ふ。男を取らんとては女に変じ、女を取らんとては男に変じて人を取る。
京中の貴賤、申の時より下になりぬれば、人をも入れず、出づる事もなし。門を閉ぢてぞ侍りける。
「平家物語 剣巻」 引用元:日本文学電子図書館 J-TEXTS

何と凄まじい執念と言えようか。

嫉妬の深い公卿の女が貴船の神の宣託を受け、その想いのあまりに生きながらに鬼となり、嫉妬の相手だけでは事足りず、見境無く人を襲うようになった。そういう話である。

「平家物語」はこの鬼女こそ、宇治の橋姫であると語る。

そしてこの鬼と化した女は、頭に鉄輪(三本足の五徳)を被るという形相をしていた事から、一般には「鉄輪の女」と呼ばれてもいる。



...さてさて、普段からワケのわからん事をほざいているこのブログの主ですが、ここからもっとワケが分からなくなりますよ。
それぐらい、橋姫にまつわる話は多くの要素が詰まり、しかも拡散しているのです。





上に引用したように、平家物語によれば宇治の橋姫こと鉄輪の女は恨みの本懐を遂げている。

ところが、同じ話を能の謡曲にした世阿弥の「鉄輪」では話がこのように変わる。

嫉妬の余り鬼となった女は相手の男に復讐を遂げようとする。しかし、男は陰陽師 安倍清明の力で守られており、鉄輪の女は調伏されて苦しみながら去って行った、と。


さて、ここで舞台は宇治から京都市内へと飛ぶ。

場所は下京区。堺町通松原を下った所に鍛冶屋町と呼ばれる一角があり、その路地(ろうじ)の奥に鉄輪の井戸と呼ばれる枯れ井戸がある。
MonsterHunting 特別編III - 鉄輪の女 -_a0004423_2344898.jpg


言い伝えによれば、安倍清明に返り討ちにされた鉄輪の女がこの井戸の辺りで力尽きて息絶えたため、その霊を弔った場所だと言う。
MonsterHunting 特別編III - 鉄輪の女 -_a0004423_2355395.jpg

それ以降、鉄輪の井戸は「縁切り」の霊験があるとされ、その力を求める者が井戸水を汲みに訪れたそうな。

「一期一会」という言葉があるように、人の縁(えにし)とは大切なもの。

それを自ら断ちたいと、相手に言い出す事も出来ず、鬼女の伝説を頼りに願を掛ける。

なんと悲しい事か。



少し冷めた話をしよう。

昔はここに「鉄輪塚」と呼ばれる塚があったらしい。
鉄輪の井戸には由来を説明する紙が置いてあり、元禄時代(つまり江戸時代)の「山州名跡志」を引用している。
(鉄輪と同じ筋の話が書かれ、)「...しこうして、その霊荒れるを以て、戴くところの鉄輪をもちて、塚を築きて、これを祭るという」
けれども鉄輪塚が本当に「鉄輪」の物語に関係があるのだろうかと問えば、個人的にはそんな印象を持たない。

この井戸のある場所は「鍛冶屋町」。
で、あれば、ここには鍛冶屋や打物屋が住んでいたはずで、鋳造過程で曲がったり折れた五徳を鋳直す為に積み上げていた、あるいは錆びたり割れた五徳を針供養のように供養する為の塚があったとしても何ら不思議はない。
能などで「鉄輪」の話が有名になるにつれ、あとづけで鉄輪塚や井戸が関連づけられた可能性の方が高い、というのは容易に想像が付くだろう。


だが、それゆえに「縁切り」を求める者が訪れるという事実が人の心の闇を浮き立たせる。

そんな場所にまですがりつく人の想いとはいかほどのものか。

MonsterHunting 特別編III - 鉄輪の女 -_a0004423_2362947.jpg

鉄輪の井戸の横には命婦稲荷。
夫婦の和合を司る社である。
願わくば、人々に鉄輪の井戸ではなくこの稲荷神の御利益があらん事を。

--> to be continued.
by jemini-web | 2008-12-17 23:08 | ▼ 散歩すすんで... | Comments(0)
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